モールトン自転車とゴムの秘密:軽量で効率的なサスペンションの優位性

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アレックスモールトン自転車のリア・サスペンションにはラバーコーンというゴム製のサスペンションが採用されています。

ゴムというと、スプリングに比べて弾性が高かったり、サスペンションとして機能する範囲が限られていたりと、性能的に劣るようなイメージですが、実はこのラバーコーンはとても考えられていて、アレックスモールトンの”シルキーライド”を実現するために欠かせないサスペンションなのです。

この記事では、ラバーコーンに焦点を合わせて、その秘密を解き明かしていきたいと思います。

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自転車フレームの剛性

サスペンションについて語る前に、自転車のフレームの剛性についてお話ししたいと思います。

ロードバイクでは一般的な700cサイズの場合、車輪が大きいことによって、フレームも大きくなります。フレームが大きいという事は、フレームがしなりやすいという事です。

また、フロントフォークが長くなることで、力を伝えるボトムブラケット(BB)からフロントの設置点までの距離が長くなってしまい、パワーの伝達ロスが生じます。

フレームビルダーは、自転車のフレームの特性を決めるために、どの部位をどのように配置するかなどを考えています。それぞれが異なるアプローチを組み合わせてうまく作り上げています。

モールトン博士は、きちんとしたサスペンションがあれば、自転車のフレームは剛性が高いほど良いと定義しました。

自転車の剛性で最も難しいのは、フレームのねじれ剛性です。

ねじれ剛性とは、立ち漕ぎをしたときに、一方のペダルを踏んだ反対側にも力が伝わり、フレームが捻れることを指します。このねじれ剛性は非常に重要です。

現代ではカーボン素材を使用すれば十分な剛性を持っていますが、モールトンのトラス構造のスペースフレームが登場した80年代では、圧倒的にモールトンのフレームの剛性は高く、そして車輪が小さいため加速が非常に良いという特徴がありました。

高圧タイヤと小径ホイール、剛性の高いフレームとサスペンションがモールトンの走りを支えています。

サスペンションの必要性

モールトン博士は、人間の力をできるだけ効率的に推進力に変換し、かつ疲労を軽減するためには、「剛性の高いフレームとサスペンション」が必要だと考えていました。

常に地面に密着することで伝達効率を向上させ、無駄な力の浪費を防ぐ。

モールトンの大前提は、アスファルトで舗装された道路を走ることです。

普通の人は、舗装された道路はデコボコしていないので、サスペンションは必要ないと考えるかもしれません。

しかし、実際には舗装された道路にも凹凸が存在します。

自転車では、さまざまな路面の(ミリ単位)の凹凸が敏感に影響してきます。

そこで、地面の凹凸といった抵抗を吸収して滑らかにして、タイヤを常に地面に密着させることで、路面から伝わる振動や車体が上下する位置エネルギーの損失を最小限に抑えます。

こうして、漕ぐ力の伝達効率を向上させることで、無駄な力の浪費を防ぐのです。

そのためには、自転車に適したサスペンションで、細かい路面の凹凸に対応することが重要になります。

体に負担をかけない

人間の体は非常に感度が高いため、自転車に乗ると心身ともに地面の細かな凹凸を敏感に感じることがあります。

高圧タイヤ、そして剛性の高いフレームでは、ダイレクトに振動が人間に伝わってしまうため、滑らかな動きのサスペンションにすることで、体かかる負担を最小限にします。

ラバーコーンの秘密

ラバーコーンを見ると、一見するとゴムがつぶれてサスペンションの機能を発揮しているように見えます。

しかし実際は、つぶれていないのです。

それを順に説明します。

5種類の力

物体への力は大きく5種類に分類することができます。

引張の力、圧縮の力、せん断の力、曲げの力、ねじりの力があります。

引張の力物体の両側を外側に引っ張る力
引張の力
圧縮の力物体の両側から内側に押す力
圧縮の力
せん断の力物体の面に対して垂直な方向から上下逆方向にかかる力
せん断の力
曲げの力物体を曲げるように働く力
曲げの力
ねじりの力物体をねじるように働く力
ねじりの力
5種類の力

たとえば、BSモールトンやブロンプトンなどは、ゴムを潰しているだけの圧縮の力だけを受けています。

圧縮の力
圧縮の力

ゴムを使った圧縮の力だけでは、荷重を徐々に増やしていくと、最初は急激に縮んでいきますが、最後の方は、あまり縮みません。

単にゴムをつぶしただけでは、サスペンションとして使える範囲が極端に少なく、体重によって異なる特性のゴムを用いるなどの調整を行ったりする必要があります。

モールトンのラバーコーン

モールトンのラバーコーンの特性には秘密があります。

ラバーコーンを半分で割ると、下の図のようにせん断の力を受けるようになっています。

モールトンのラバーコーン断面
モールトンのラバーコーン断面

ラバーコーンは単なるゴムの塊を潰しているのではなく、このようなせん断の力をサスペンションとして利用しています。

このせん断の力を利用すると、圧縮の力を利用した場合に比べてサスペンションとして、使える範囲が広く、スプリングのような特性になります。

驚くべきことは、これには非常に汎用性があり、体重の軽い人から重い人まで、誰が乗っても同じ特性を持っていることです。

そのため、非常に幅広く利用できるのです。そして、鉄のスプリングで同様のことをしようとすると、重くなるばかりで、このようなコンパクトな形にはできません。

そして、ゴムが割れて交換するというケースは稀で、耐久性も高くメンテナンスも簡単です。

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